口説き方がアップデートされない男の話

酒場人間観察記 口説き方がアップデートされない男の話

飲み屋で口説かれたことがある。

平日の遅い時間で、店内にはもう常連っぽい客しか残っていなかった。

相手は同い年の男で、見た目も悪くないし、会話のテンポも良い。ただ、口説き文句が全部どこかズレていた。

「アレちゃんって意外と○○でしょ?俺そういうのわかっちゃうんだよね〜」

実際は全然違う。でも本人は気にしていない様子だった。たぶん外れても「そのギャップがまたいい」みたいな感じで着地させるつもりだったのだと思う。

悪い人ではないのだろうけど、正直なところ「その手法、何年前から使ってるんだろう」という気持ちになった。同い年なのに。

20代前半には成立する「年上男性テンプレ」

多分あれは、若い頃には成立していたのだと思う。

20代前半くらいだと、「俺わかってるよ」という雰囲気を出してくる男に対して、“自分を見抜いてくれている感”を抱くことがあるし、多少決めつけが強くても、それを“自信”として受け取る人もいる。

自分のことをわかってくれる人間がいる、という感覚は普通に嬉しいし、細かいところに気づいてくれる男は「気が利く」に変換されやすい。20代前半くらいだと特にそうだろうと思う。

だから、「君って本当はこういうところあるでしょ」と断定してくる男や、「俺そういうのわかっちゃうんだよね」と言ってくる男に対して、“ちゃんと見てもらえている感じ”を抱いてしまうことがある。

でも、年齢を重ねると、「わかってる系」の手口はだいたい見えてくる。

当たっても外れても着地させられる構造になっていること、褒めているようで実は自分の観察眼を主張したいだけであること、そういうのが積み重なった経験でわかってしまう。だから響かない。

それだけじゃなくて、正直イラッとするまである。

「知ったようなことを言うな」という気持ちになるのだ。

しかも、大抵そこまで深く見てもいない。

数回話しただけの相手に「わかっちゃう」と言われても、こちらからすると「全然わかってないけど」という感想しかない。しかも外れているのに本人は意に介さない。

自分のことを理解してもらった感覚はゼロで、目の前の私ではなく、“過去に成功した女の残像”に話しかけている感じというか、過去に成功した女の残像に向かって話しかけている感じがある。

多分、若い頃はそれでも成立したのだと思う。

そして、その方法で成功してしまった男は、自分のやり方を更新しなくなる。

なぜなら、それでずっと勝ててしまうからだ。

同年代になると「既視感」が勝つ

でも、こちらも同じだけ歳を取っているので、「この人、今まで同じやり方でやってきたんだろうな」ということが透けて見えてしまう。

仕事論を語る男も、夢を語る男も、「実はこういう子でしょ?」と勝手に分析してくる男も、一通り見てきているので、「この人すごい」より先に、「この人、何年も同じことやってるんだな」という感想が生まれてしまう。

昔は“引っ張ってくれる男”に見えた態度が、今見ると“人の話を聞かない男”に見えたり、昔は“余裕”に見えた振る舞いが、今では“アップデートを放棄している人”に見えたりすることもある。

たぶん、同年代の女というのは、男が思っている以上に“更新されてなさ”を見抜く。

べつに若い女と付き合うこと自体がおかしいわけではない。ただ、20代前半には通用するやり方を繰り返し使い続けているから、その層を繰り返し口説くことになる。

結果として、自分の年齢が上がっても連れている女の年齢は変わらない、という状態が続く。

悪意があってそうしているわけではないと思う。ただ、アップデートが止まっているだけで、本人はそれに気づいていない。

「努力しなくてもモテてきた男」の停滞

こういう男って、別に“モテない男”ではないのがややこしい。

むしろ普通にイケメンだったり、仕事ができたり、収入もそれなりにあったりして、客観的に見てもちゃんとスペックが高い男が多い。

だから若い頃から、そんなに必死に努力しなくても、ある程度自然にモテてきたのだと思う。

多少強引でも、多少雑でも、女が勝手に好意的に解釈してくれるし、多少会話がズレていても、「この人なんか魅力あるな」で成立してしまう。

つまり、“自分を更新しなくても困らなかった男”なのだ。

むしろ、うまくいかなかった経験がある男のほうが、相手を見ようとする癖がついていたりする。「このままじゃダメだな」とやり方を変えたり、相手をちゃんと見ようとしたり、自分の会話や態度を修正したりする機会がある。

でも、最初からある程度モテてしまう男には、その機会がない。

なぜなら、修正しなくても成立してしまうからだ。

結果として、20代の頃に覚えた“モテる男の振る舞い”を、30代後半になっても40代になっても、そのまま使い続けることになる。

本人の中ではずっと成功体験が繋がっているので、「このやり方は正しい」という感覚のまま歳を重ねていくのだけど、同年代の女から見ると、その“更新されてなさ”が逆にはっきり見えてしまう。

若い頃は魅力として機能していた自信や余裕が、年齢を重ねると、“自分を疑ったことがない人特有の雑さ”に変わっていくのだと思う。

結局のところ

年齢を重ねた女に通用するのは、「わかってるよ」と言ってくる男ではなく、簡単に“わかった気にならない男”なのだと思う。

年齢を重ねると、人間なんてそんな簡単に分類できないことも、自分自身ですらよくわからない部分を抱えていることも、嫌というほど知っていく。

だから、「わかるよ」と言われることより、「ちゃんと見ようとしてくれている」と感じることのほうが信頼に繋がる。

でも、若い頃からモテてきた男ほど、その感覚に更新されない。

昔の成功体験のままでも、若い女にはまだ通用するからだ。

その結果、自分の年齢が上がっても、隣にいる女の年齢だけがずっと変わらない。

たぶん、年齢を重ねてもずっと若い女ばかり連れている男というのは、若い女が好きというより、“昔の自分が通用する場所”に留まり続けている人なのだと思う。

飲み屋で口説かれながら、そんなことをぼんやり考えていた。